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魔界の門 |
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8. それでも尚、ラウェルスが何か言おうとしたとき。「ラウェルス、終わりです。もう無駄ですよ」 現れた美しい姿。涼しい声……レルディン。 彼は真っ直ぐにナダに向かっていく。 「待て、レルディン!」 ラウェルスの制止になど構いはしない。レルディンは妖精族の魔力のかかった細身の剣を抜きながら、ナダに向かって歩き続ける。 その目の前に、やはりバスカークが立ちはだかった。レルディンは立ち止まったが、呪縛を受けたわけではなかった。 「二度も同じ手は食いませんよ。あのときは突然だったので、不覚をとりましたがね」 バスカークはしげしげとレルディンを見た。 「ほう……やはり妖精族なのだな。だが、なぜ妖精族などがしゃしゃり出てきた? そなたらはアラウィサクのことなど、とうに見限っていように」 「わたしは違うのですよ。あなたたちなどに、ラトカーティス様のくだされた世界をめちゃくちゃにされたくなどないのですよ」 言うなり、レルディンは細剣でバスカークを薙ぎ払った。 実体のない体を剣がすり抜ける……と思ったが、バスカークは悲鳴をあげた。精霊をも斬ることのできるレルディンの剣は、実体のない亡霊を斬ることも可能だった。 バスカークは一旦消えて、離れた場所に再び現れた。元々半透明だった体が、更に薄くなっている。 王の危機を本能的に悟ったのか、魂の青い炎たちが一斉にレルディンに襲い掛かかろうとした。しかし、レルディンな何かの身振りをすると、炎たちは怯えたように、その場で動かなくなった。 「ラウェルス、もう動けますか?」 「ああ」 「では、ナダを。わたしが亡霊たちを抑えていますから、早く」 「レルディン……」 途方に暮れて、ラウェルスはつらそうにナダを見た。そんなラウェルスをレルディンは更にせかす。 「約束でしょう、ラウェルス? ナダを説得できなければ……」 「殺す……のね……?」 ナダが続けた。ラウェルスはギクリと身を強張らせた。 「ナダ……」 「あたしを殺すのね……王子様……も……」 「待て、ナダ!」 ナダは無視した。くるりとラウェルスに背を向け、紫水晶の柱が描く円の中に入る。 「ナダ! ……うわっ!」 ナダを力ずくで引き止めようとしたラウェルスだったが、円の所で見えない障壁に弾き飛ばされた。紫水晶の柱たちが、ナダの意思に反応したのだ。ラウェルスが来ることを拒んだ、ナダの意思に。 ナダは振り向かなかった。悲しいのに涙も出なかった。そのことをまた悲しく思いながら、ナダは紫光の宝珠を両手で高く掲げた。 紫光の宝珠は六条の光を放ち、それぞれが周囲の柱に伸びていく。そして届いた瞬間、柱は生命を得たように輝いた。 地面が、とくん、と脈打つ。 「させません!」 レルディンが走る。 彼なら妖精族の魔力で、障壁を越えてしまうかもしれない。そう思ったが、ナダはやはり振り向かなかった。 呪縛から解放された魂の青い炎たちが、レルディンを追った。しかし、レルディンは構わず、障壁に体当たりした。 バシバシッと激しい音がして、レルディンは美しい顔を苦痛に歪めた。だが、呻き声一つあげない。魂の青い炎が纏わり付き攻撃をしても同じだ。レルディンは一歩も引かず、自分の身を庇いもせずに障壁を破ろうとし、バシバシッという音が鳴り続けた。 「無理だ、レルディン! 死んでしまうぞ!」 やっと起き上がれたラウェルスが、後ろからレルディンを羽交い絞めにして引き戻した。青い炎は攻撃をやめ、代わりにナダを守るように紫水晶の柱を取り巻いた。 レルディンを力ずくで押さえておくだけで精一杯のラウェルスには、もう、どうしようもなかった。 ナダの長すぎる亜麻色の巻き毛が大きくうねり、紫光の宝珠が宙に浮き上がる。そして、強烈な光を炸裂させた。 洞窟じゅうが激しく鳴動する。 ナダの足元から紫の光の柱が突き上げ、洞窟の天井を貫く。 とてつもない轟音をあげて天井が崩れ落ち、巨大な岩石がいくつもいくつも降り注いだ。 ナダの体は紫光の宝珠とともに、紫の光の柱の中に消えた。 魔界の門は開かれた……。 |
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