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魔界の門 |
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7. 魔界の門……。魔王殿の地下に、それはあった。 いたるところに漂う青い炎……今のナダには、それがジラルの住人の魂だと分かる……の仄かな光に照らされる廊下の、突き当たりの大きな石の扉。その向こうの、だだつ広い洞窟に。 そこにも魂の炎が揺れていた。 中央には巨大な紫水晶の柱が六本、大きな円を描いて聳え立っている。その、いかにも意味ありげな様子を見れば、すぐに想像はつく。これが魔界の門なのだ。 「心の準備はできておいでか?」 バスカークが厳かに問う。顔には出さないが、千年もの長い間夢に見た時がようやく訪れたことへの喜びが、実体のない胸の奥で高まっていた。そして、おそらく、この場を照らすたくさんの青い炎も、何かを感じている。落ち着かなげな瞬きや揺らめきが、それを物語っていた。 ナダは静かに頷いた。 「どうすればいいの?」 「おそらく、珠を手にあの紫水晶の円の中にお立ちになるだけで、全てが始まろう」 「……分かったわ」 ナダは白い衣の裾と亜麻色の巻き毛をむき出しの地面に引きずって、円へ向かって歩いていった。 円のすぐ手前で一度立ち止まり、目の前に聳える紫水晶の柱を見上げる。 そのとき、背後から誰かの駆ける足音がした。そして、声。 「ナダ!」 ナダの体が、びくんと震えた。この声は……。 「ラン……!」 ナダは反射的に振り向いた。 開け放たれたままの石の扉を入ったすぐの場所に、炎の……ここに漂う炎とは違う真っ赤な炎の髪を乱したラウェルスがいた。ラウェルスは方で息をしながら言った。 「ナダ、待て。魔界の門を開いてはいけない。さあ、こっちへ来るんだ」 凛とした力強い声が、天井の高い広い洞窟によく響く。それは、ナダが悲しみと絶望に心を塞がれながらも、本当は聞きたくて仕方のなかった声。しかし……。 ナダがそれ以上動こうとはしないので、ラウェルスは自分からナダに歩み寄ろうとした。その目の前に、忽然とバスカークが立ちはだかった。 「なっ……!」 ラウェルスは動きを封じられていた。 亡霊の王は、冷ややかに言った。 「ラウェルス王子、か。千年の時を越え、その名と血が、またしても我らの邪魔をするというのか? だが、そうはさせぬ。いや、そなたには何もできぬ。ラトカーティスの神剣持たぬそなたに、何ができる?」 「何だと!?」 ラウェルスはギリリと歯噛みして、目尻を吊り上げる。バスカークは、ククっと嘲笑した。 「王子、そこでおとなしく魔界の門が開くのを見物しておるがよい。そのときこそ、我らの復讐が始まる。魔界の門がある……ただそれだけの理由で我らを迫害した、アラウィサクの民への。そして、それゆえにレナコルディ様におすがりするしかなかった我らを滅ぼした、アデイアーク王家への……な。その手始めに、そなたを縊り殺してやるゆえ」 それだけ言うと、バスカークはナダに向き直った。 「さあ、お妃様。あなたを見捨てた男のことなどお気になさらずに、門をお開けなさい」 「違う! ナダ、俺は……」 「どこが違うの……?」 ナダには忘れられない。化け物を見るようだったラウェルスの目。レルディンがナダを殺すと言ったときの、ラウェルスの迷い……。 「ラン……王子様……あなただって、あたしなんかを受け入れられるわけ、ない」 「何を言うんだ。こうして迎えに来たじゃないか」 「アラウィサクを守りたいからでしょ?」 「ナダ……!」 ラウェルスは叱るような表情でナダを見つめた。しかし、その表情が不意に戸惑いに変わった。 ナダの表情に気づいたのだ。ナダがもう、この世界に対して心を閉ざしてしまっていることに。 |
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