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魔界の門 |
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日干し煉瓦の家だから、砂漠の国サグナーラだろうか。そこには夫婦らしい、若い男女がいる。 娘の方は、おそらく他国から嫁いできたのだろう。サグナーラの民とは思えない、白い肌と亜麻色の髪をもっている。彼女は苦しそうに寝台に横たわり、その傍に老婆がいた。青年は沸いたばかりの湯をたらいに入れていたが、老婆に追い出されてしまった。どうやら出産の場面らしい。 暫くすると、娘が本格的に苦しみだした。産婆が夫の代わりに、励ましの言葉をかける。だが、娘の苦しみ方は尋常ではないらしい。産婆の焦りの表情がそれを物語っている。 すると、母体に異変が起きた。全身が紫の光に包まれだしたのだ。いや、胎内から染み出してきたと言った方が正しい。そして、その光がどんどん強くなっていく。娘の苦しみが、一層ひどくなる。 恐慌をきたす老婆。その声で部屋に飛び込んできた、夫である青年。その二人の目の前で、娘の体は一際強い何本もの紫の光の矢に、内部から貫かれた。 そして、赤子の鳴き声。 「あ……悪魔の子だ……!」 気が狂ったようにそう叫び、産婆である老婆は逃げ出した。 母親となるはずだった娘は、こときれていた。 それなのに赤子は何も知らず、無心に泣き声をあげている。父親となった青年は、そんな我が子を茫然と見つめていた。 赤子はちゃんと人間の姿をした、母親譲りの亜麻色の髪の女の子だった。
幼い少女が男に手を引かれ、山道を旅している。この光景には、ナダも見覚えがあった。 そう、思い出した。物心ついた頃からずっと、ナダは父親と二人で、いろいろな町や村を転々としてきたのだ。半年以上落ち着けた場所はない。その理由は、ナダの不可解な力のせいだった。 「さあ、ナダ。今日はもう、この辺で休むことにしよう。パパは今から晩御飯を作るから、いい子にしていなさい」 父親はそう言うと、焚き火の準備を始める。前の町を出てからもう二十日あまり旅を続けてきたせいで、幼いナダはかなり疲れてきてしまっているらしい。いつの間にか一本の木の根元に座ったまま、眠ってしまう。 半刻ほどして、父親が声をかける。 「ナダ、できたよ」 だが、ナダはすっかり寝入っている。それに気付いた父親は、微笑んで我が子に毛布を掛けようとした。 が、その手が、ふと止まる。 父親はひどく思いつめたような顔で、我が子を見つめていた。その顔は、少しやつれていて。 暫くはそのままだった。しかし、やがて……重く……重く話しかけた。 「ナダ……パパはもう、疲れたよ。おまえを愛してやりたいのに、愛しきれない……おまえが生まれたときのことが忘れられないんだ。それでも愛さなければいけないと義務のように感じて愛しているフリをしている……。そのことがまた、パパの心を責め苛む。これからの長い年月、ずっとこんな思いをしながらおまえを守り続ける自信は……もう……ない……」 父親は、そっとナダの細い首に両手を伸ばす。そして、一瞬ためらって。 「おまえだけを死なせはしないから……赦してくれ……」 その手に力を込めた。 (苦しい……!) ナダは目を覚ました。空気を求めて、喘ぎもがく。 (苦しい……パパがやってるの? どうして……?) ほんの四歳のナダに、抵抗する力などあるわけがなかった。 (どうして……?) その問いを頭の中で繰り返し続けながら、意識は薄れていくばかり。 (イヤ……死にたくないよ……) もう、だめだ。 (死ぬのはいやああああああああっ……!!!!) 感情が弾けた。 それと同時に、ナダの全身から紫の光が炸裂した。 そして……。 父親の体が破裂した……。 |
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