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亡者の王国 |
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4. それからまだ数分しか経っていない。卓の上と壁の燭台に火を灯していたレルディンが、呆れたように最後の一つの手を止めた。 さっきからずっと、ナダが部屋の中を行ったり来たりしているのだ。落ち着かなげに右の人差し指にクリクリと髪を絡ませたりほどいたりしながら。 「少しはじっとしていたらどうです、ナダ?」 「だって……」 ナダは膨れっ面をして立ち止まった。それを確認するとレルディンは最後の火を灯し、カーテンを閉じようとして、この部屋唯一の窓際へ移動した。そこで、ぴたりと動きを止める。 「ナダ、こちらへおいでなさい。良いものが見られますよ」 「……?」 指に絡めていた髪をほどき、ナダは窓際へ行った。外を見て、目を大きく見開いた。 夜の中で、ジラルの廃墟のあちらこちらが、まろやかに光っていた。そして中央――魔王殿の辺りは一段と広い範囲で光っている。その月光のような白い輝きには見覚えがあった。 「これ……ひょっとして月光草……?」 「ご存じでしたか」 「うん。この間、ランが見せてくれた。でも、あのときは一輪で……こんなにたくさんあるなんて、すごい……」 ナダはほーっと廃墟の淡い光を見つめ、その幻想的な美しさに心を打たれた。しかし、あまりに美しいがゆえに、かえって悲しみも感じられる。ここが滅ぼされた都である事実が……。 そう思って見ると、花の光はここで命を失った人々の魂の光のようにも見えた。それとも、滅んだ都と人々への鎮魂歌……。 我知らず、涙が頬を伝っていた。 ずっとナダの様子を見ていたレルディンは、それを見てほんの一瞬夏の森の色の目を厳しく眇めた。しかし、すぐにいつもの涼しげな表情に戻り、やはり涼しげに言った。 「感じるようですね、あの花の光の意味を」 「え……? 意味……?」 ナダは慌てて涙を拭い、ぽかんとレルディンを見た。絶世の美青年は意味深な微笑を浮かべ、静かに頷いた。 「あの花……月光花は元来このジラルのものです。伝説によれば、あの花は黒巫女の骸が姿を変えたものだともいいます」 「黒巫女……。ねえ、黒巫女っていったい何なの?」 「黒巫女は……元々は普通の村娘でした。彼女は美しく、ラトカーティス神に見初められて、大神殿の巫女としてお召しを受けたのです。ですが、彼女は魔王の邪悪な誘惑に負け、神を裏切りました。そうして、魔王の力の一部を授けられたのですよ。一つの紫色の水晶球として……」 「紫の水晶球? それって、もしかして……」 「ええ。おそらくそれが<紫光の宝珠>です」 「でもランは知らなかったわ」 「民間の伝説には球の存在自体がありませんし、王家の歴史書でも<紫光の宝珠>という名は出てこないのですよ。それに、球は神剣を突き立てられているので、破壊されたと思われています。ですが、ラウェルスも予想はしていたと思いますよ。ただ、それが何故あのような名が付いて、魔術師たちの間に伝わっているのかは分かり……」 レルディンは不意に口を噤んだ。涼しげなままの目が戸口を見据え、次に口を開いたときの声もやはり涼しげだったものの、やや低めになっていた。 「盗み聞きなど、あまり褒められたことではありませんね。姿を現しなさい」 ナダは慌ててレルディンの視線を追った。その先の虚空に黒い染みが忽然と現れ、それは瞬く間に人間の大きさと形を成して、黒衣の魔女の姿になった。 |
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