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亡者の王国 |
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2. 「誰だ!?」ラウェルスが剣の柄に手をかけ、鋭い目で慎重に周囲を見回した。その隣でナダはそっと腰の短刀を手探りし、レルディンも腰の剣に手を伸ばしつつ、じっと気配を窺っていた。 「ラウェルス、前です」 ひどく落ちついて、しかしその涼しげな声にも目にも不思議な威圧を込めて、レルディンがそう言った。 ラウェルスとナダが目を向けたときには、そこはまだ、ただの空間で何もなかた。しかし……。 「影……?」 忽然と現れたそれは、まさしくそう見えた。着地して初めて、それが黒い魔術師の衣を纏った人物だと判明した。 「ラウェルス=ラン=アディアーク殿下でございますね?」 目深に被った頭巾の奥から、女の声がそう確認してきた。 異様な出現の仕方で、この魔女の力の程を充分に察することができた。だからラウェルスは、彼女が自分の正体を言い当てた理由を問うような愚かな真似はしなかった。代わりにラウェルスは王子の顔になり、鷹揚に頷いた。 「そうだが。おまえは?」 新たな刺客かもしれない。ナダは不安げに、しかし、しっかりと心構えをする。緊張が全身を駆け抜ける。固唾を飲んで、魔女を見つめる。 しかし、ナダの心配に反して、黒い魔女はラウェルスの前に恭しく膝を折った。 「わたくしの名は、プルミア=バーライ。殿下の兄君、セシオス様よりの使いで参りました次第。殿下をお迎えし、お連れするようにと」 「兄上だと……!? 兄上がこんなところにいるのか……!?」 「そうです。わたくしが魔法の道でご案内いたしましたゆえ」 さすがのラウェルスも、これには端正な顔を曇らせた。血の繋がった兄弟でありながら、王位のために弟を殺そうとする兄。そんな兄に会うのは辛かった。 魔女プルミアが声に笑みを含めて言った。 「何てお顔をなさいますの? 兄君はいまや、世界の帝王ともなれるお力を得られたのですよ。殿下を亡き者になさる必要など、もうございませんわ。ご心配には及びませぬ。そう、<紫光の宝珠>は先ほど申しましたように、゛シオス様のお手にあるのです。殿下もそれがお目当てではございませんの? その可愛らしいお嬢さんのために」 プルミアの顔は頭巾の陰になっていて見えないのに、ナダには彼女の目がしっかりと自分に注がれていることが分かった。それはあまり気持ちのいいものではなく、ナダをひどく不安にさせる。はっきりとした形は成さないくせに、存在感だけは確かにある……そんな不安。 だが、プルミアの言ったとおり、ナダには<紫光の宝珠>が必要だ。ナダの身元を知る手がかりは、それしかないのだから。 (でも、ランが……) ナダはレルディンに目を向けてみた。絶世の美青年の顔は、やはり涼しげな無表情だ。しかし彼の場合、この無表情さが曲者なのだ。 そう思っていると、レルディンがナダに目を向けた。 「気にせずに行ってもらいなさい。あなたが何と言おうと、ラウェルスはどうせ行くつもりでしょうからね」 「よく分かったな」 「ラン……」 頼りなげな声を出すナダを振り返り、ラウェルスは安心させるように微笑んだ。それから再び、王子らしい威厳のある引き締まった表情になって。 「聞いてのとおりだ。プルミア、とかいったな。案内してもらおう」 「ご承知戴き、嬉しゅうございます。セシオス様も、どんなにかお喜びになりますでしょう。では参りましょう」 プルミアは立ち上がると、ナダたちに背を向けた。そして峠をジラルの滅びた都へと下っていった。 その後に続くラウェルスの表情は相変わらず王子のものだったが、頭上に広がる空と同じ色の瞳の中には、どこかしら陰りがあった。 |
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