屍術

3.

「おお! まさしく精霊の水晶だ! 僅かだが精霊力を感じるぞ!」
 屍術士は満面に笑みを浮かべて、水晶玉を手の上で転がしたり透かしたりしている。ナダたちは彼の興奮が収まるまで、黙って待っていた。
 やがて屍術士は四つの精霊の水晶をそっと戸棚にしまい、愛想良く言った。
「礼を言うぞ。では、早速わしも約束を守ろう。えーっと……」
「この町の十二年前の大火災についてです」
 レルディンが言う。
「ああ、そうだったな。それと、お嬢さんの身元調べだな」
 屍術士に笑みを向けられ、ナダは頷く。
「よかろう。では、まず大火災のことから話してやろう」
 そう言うと、屍術士は膝の上で骨ばった指を組んで、話を始めた。


 メリトの町に住んでいた、一人の幼い少女。それが、この悲惨な大火災の原因だった。その少女は何やら奇怪な力を持っていて、人々には悪魔の子として忌み嫌われていた。
 少女の両親も、例外ではなかった。我が子のこととてずっと堪えてきたのだったが、ある日、遂に少女の両親は我が子を神殿に突き出したのだ。
 神殿でも少女のことはよく知っていて、裁判の結果、少女は火炙りに処されることとなり……。
 そして処刑の日、悲劇は起こった。
 神殿前の広場の中央、木の杭に縛り付けられ、必死に助けを求めて泣く少女の小さな体を無慈悲な炎が包み込んだとき。ひときわ甲高い少女の悲鳴が、燃え盛る炎を貫いたとき。
 突如、町自体が炎を噴き出した。
 町全体が瞬く間に炎に包まれた。それは、魔の少女の呪いの炎。
 少女はこのメリトの町とその住人全てを、己が道連れにしたのだった……。


「よほど恐ろしい思いをしたらしくてな、死体たちの頭の中は随分錯乱しておった。そのせいで話す内容も支離滅裂で、詳しいことは分からなんだ。が、わしなりにまとめてみて、大体こんなとこだろう、ということだ。これで、あんたたちの役に立てばいいがな」
 屍術士がそう締めくくって口を閉じても、誰も暫くは何も言わなかった。
 最初に口を開いたのは、珍しく深刻そうな顔をしたラウェルスだった。
「何か……惨いな。全滅した住人も憐れだが、両親にまで見捨てられて火炙りにされて、その女の子、どんなにか恐ろしかっただろうに」
 そこまで言って、ラウェルスはハッとナダを見た。
「あ、悪い、ナダ。君はこの事件の被害者なのにな」
 しかし、ナダは顔を上げて、首を横に振った。
「ううん、あたしもランと同じこと思った。町の人たちより、その女の子の方が可哀相だって。ヘンだね、あたしのお父さんやお母さん、その子に殺されたようなものなのに。あたしに、お父さんやお母さんの記憶がないから……かな? 恨みとか、そんなの、全然湧かない……」
 そんな会話をしているナダたちを横目で見て、それまで何かに考えを巡らせているようだったレルディンが口を開いた。
「魔性の子なのですよ。その存在は世界を蝕んでいく……。哀れみを受けられるような存在ではありません」
 口調の涼しさが、このときは無慈悲に感じられた。青灰色の目を悲しげに曇らせて、ナダはレルディンの美しい横顔を見つめた。しかし、レルディンはすっと目を逸らせ、屍術士に尋ねた。
「町が炎を噴いたとき、他におかしなことはなかったのでしょうか?」
 屍術士は衣の袖口をいじりながら、自分の頭の中を探ってみた。そして、ややすると、ハッとしてレルディンを見た。
「紫の光だ。紫の光のことを口走ってる者がおったぞ。まあ、これも何のことやらさっぱり分からんかったがな」
「そうですか」
 レルディンは一人納得したように頷いた。そしてナダを見ると、涼しく微笑んだ。
「さあ、ナダ。次はあなたの番ですよ」
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