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大地の祠 〜夜空の洞窟〜 |
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4. 愚かな罪人の石像を残し、ナダたちは先へ進んだ。ヘタをすると、泥棒でもないのに自分たちもあんな石像にされてしまうのかと思うと、ナダは本当に恐ろしくなった。夜空の洞窟のせっかくの美しさなのに、楽しんでなどいられない。もう一つ階を下りると、今までよりも随分と広い洞窟に出た。ラウェルスは遠慮無しに、夜空の洞窟広間の真ん中を突っ切る。一見するとただの考えなしのバカだが、彼の場合は呆れるほどの自信だろう。 まあ確かに、殆ど遮蔽物が存在しない広間なのだから不意打ちなども受けようがなく、こちらが隠れながら歩くこともできない。それならば、ラウェルスのように堂々と中央突破しても、何も問題はないのかもしれない。 少しドキドキしながらもそう思うことにしたナダだったが、その途端、ラウェルスがいきなり足を止めた。 「何……?」 ナダはラウェルスの背後から、そろっと前方を窺ってみた。満天の星空のような空間の中、また黒い人影が見える。レルディンがラウェルスの横に並び、夏の森の色の目を眇める。レルディンは普通の人間より夜目が利くのだ。 「あれも石像のようですよ。ですが……少しおかしいような気がしますね……」 「まあ、いい。確かめる」 そう言うと、ラウェルスは再び歩きだした。 人影の傍まで来てみると、やはり石像だった。今度は女性だ。薄絹を纏った、すらりとしたしなやかそうな肢体。そして……。 顔に、そして頭に目を移したナダは、目を見開いて両手で口元を覆った。 「何、これ……? 蛇……?」 石像の容貌は美しいといえた。しかし、本来髪があるはずの場所に無数の細く青黒い蛇がのたくっているのだ。そう、のたくっている……蛇は生きて動いている。ひどく気味が悪い。ナダの肌は、全身粟立っていた。 「<蛇の乙女>ですね」 レルディンが眉一つ動かさずに答えた。 「ご覧のとおり、彼女たちの頭髪は全て生きた本物の蛇なのです。そして、意思の力を込めて相手を睨めば、その者を石化することができる邪視をもっています」 「だが、彼女たちがこの祠の番人のはずだ。それが、なぜ石に……」 そう言って蛇の髪を見つめるラウェルスの表情にも、全く気味悪がっている様子はなかった。 ナダは<蛇の乙女>を見つめ続けていた。最初は奇怪な蛇の髪から目が離せないだけだったのだが、そのうちそれには慣れてきて、今は別のことを考えていた。 「ねえ、レルディン」 「何です?」 「あのお薬、使おうよ」 「って、石化回復の薬ですか?」 「うん」 レルディンは僅かに眉根を寄せた。 「ですがナダ、薬は一回分しかないのですよ?」 「それは……そうだけど……」 「それに、彼女も狂っている可能性は大いにあるのですよ? 彼女の石化が解けた途端に、今度はわたしたちの内誰かが石化されでもしたら……」 「そんなの、分からないじゃない!」 ナダは思わずムキになって反論していた。石化、というのが、どうにも気に入らないのだ。生きることもできない、死ぬこともできない。魂は永遠に、この冷たい石の中に閉じ込められる。そんなの、あまりに残酷だ。 「さっきの泥棒は罰を受ける義務があるかもしれないけど、この人にはないでしょ!? なのに、このまま見捨てるなんて、ひどい!」 ナダは必死に訴えるが、レルディンの表情は変わらない。ナダは更に言い募ろうして息を吸い込んだが、そのときラウェルスが口を挟んだ。 「分かったよ、ナダ。そこまで言うんなら、薬を使え」 「ラウェルス!」 レルディンは咎めるようにラウェルスを見た。しかしラウェルスは、例の自信たっぷりの笑みで、こう言った。 「大丈夫だ。もし彼女が襲ってくるようなら、俺が始末してやる」 「ですが……」 「信用しろ」 ラウェルスにきっぱりとそう言われ、レルディンは肩を竦めた。懐から貴重な木の実の殻の薬瓶を取り出すと、ナダに手渡した。 「まったく、お二人ともどうかしていますよ。さあ、これを彼女の頭からおかけなさい」 「ありがとう!」 ナダは木の実の殻の小瓶を受け取ると、そっと木の栓を抜いた。そして、<蛇の乙女>の石化した体に歩み寄ると、背伸びをして瓶の中身を惜しげもなく全て注いだ。 そんなに大量にあったわけはないのに、液体は下へ流れ落ちながら、石の体をまんべんなく濡らしていった。それが足の爪先にまで及ぶと、一瞬全身が淡く光を帯び、その後少しずつ頭の方から色が変わっていった。石が生身の体に戻っていっているのだ。 完全な生身に戻った<蛇の乙女>は、暫くの間は茫然としていた。そして、間近で息を呑んで見守っているナダに気付くと、ぱちぱちと目ばたきをした。 「何じゃ、おまえは?」 ラウェルスとレルデインが、密かに各々の剣の柄に手をかけた。 |
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