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炎の祠 〜熱砂の遺跡〜 |
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5. ラウェルスとレルディンが指定された場所にそれぞれの愛馬を繋ぐと、三人は案内係の兵士に連れられて城の奥に通された。赤っぽい色の石壁のせいで暑いような印象を受けるが、実際は王宮内はひんやりと涼しい。やがてナダたちは、大きく豪華な両開きの扉の前に辿り着いた。扉を守っている兵士が三人の武器を預かると、厳かな動作で扉を開けてくれた。ナダたちはラウェルスを先頭に、謁見の間に入っていった。 炎のように赤い絨毯の先に低い壇があり、玉座が置かれている。そこに腰を下ろしている人物の顔が分かるくらいにまで近づくと、その人物は驚いたように目を見開いて立ち上がり、叫んだ。 「ラン!」 ラウェルスはいたずらっぽい笑みを浮かべ、玉座の前に足を止めた。 「久しぶりだな、ルフィード」 「おまえが……巡礼……?」 信じられない、というように呟いたその人物が、炎の精霊王を祀るこのサグナーラ王国の若き王だった。前王であった父親が二年前に病で他界し、若干十八歳で王位を継いだのだが、国の人々はなかなかの名君だと褒め称えている。「本当におまえが巡礼しているのか?」 尚も疑う若き王。ラウェルスはムッとして言い返した。 「悪いか。剣を振り回してばかりいるおまえと一緒にするな」 「おまえには言われたくないぞ」 若き王も言い返す。 「宮廷じゅうの女を口説き回っているよりはマシだ」 二人のいきなりの言い合いに、ナダはぽかんと立ち尽くしていた。何がどうなっているのか、さっぱり分からない。ウルバース城を訪れたときとは、全く様子が違うではないか。 しかし、尚も言い合いが続きそうだと見てとったレルディンが、巧妙に口を挟んだ。 「ラウェルス、ナダが困っていますよ」 ラウェルスは今にも口に出しそうになった言葉の鉾先を収めた。そして、肩を竦めるとナダを見た。 「ああ、ナダ、紹介するよ。こいつが、この国の王だ。俺と同い年なんだがな」 ラウェルスがそう言うと、若き王もナダの方を見て、ゆっくりと壇から降りてきて微笑んだ。 「サグナーラ国王、サルファ=ルフィード=サグナーラだ。ようこそ、我が城へ」 「あ……ナダ=ルーアです」 慌ててぺこりと頭を下げてから、ナダはいきなり一国の王らしい貫禄を纏った若き王の変幻ぶりに驚いて、しげしげと見つめてしまった。 浅黒い肌に精悍な顔立ちながら、王族の品も併せ持っている。明るい茶色の瞳が力強い。 纏っている衣は魔導衣によく似た、裾が床まで届くたっぷりとした白い衣で、金の帯を締めて、刀身が曲線を描く変わった剣を佩いている。頭には白い布を兵士たちと同じように被り、そこから波打つ黒髪が覗いている。布を留めているのは兵士たちのような簡素な輪ではなく、鮮やかな赤い布を細い金の鎖と合わせてよじったもので、左側で結んだ残りが、被り布とともに肘の辺りまで流されている。 (やっぱり王様だ……) ナダはどうしても気が引けてしまう。横で優雅に会釈するレルディンを見ると、尚更自分が情けなくなってしまった。 「客人の前だ。この議論はお預けだな」 微笑んでそう言うと、若き王サルファは玉座に戻ってドカっと腰を下ろし、足を組んだ。肘置きに右肘をついて頬杖をし、ラウェルスを見る。そして、もう一度聞いた。 「本当に巡礼か、ラン?」 明るい茶色の目が真剣な表情を帯びている。ラウェルスも一瞬真剣な目でその目を見返し、しかし、すぐにニコリと笑ってこう言った。 「そうだよ、この子のために、な」 ラウェルスは目でナダを指した。 サルファは表情を変えず、じっとラウェルスの目を見続けた。そして、やれやれというように肩を竦めた。 「まあ、いいか。おまえのことだ。ちゃんと考えがあって行動しているんだろうからな」 そう言うと、サルファは玉座の脇から小箱を取り上げた。蓋を開けて、中から古代製法の紙のカードと赤い羽根ペンを取り出す。そして、アリシア女王やラウェルスと全く同じ手順で、<炎の祠>の<鍵>を描き上げた。 「そら、<鍵>だ」 サルファは、ぴらぴらっとカードを振った。 「すまん」 ラウェルスは壇に上がってそれを受け取り、ナダに手渡した。ナダがカードを見てみると、以前の二枚とはまた違う記号が赤で描かれていた。 サルファは立ち上がった。 「おい、ラン」 「何だ、ルフィード?」 「今夜は城に泊まっていくんだろうな?」 ラウェルスはナダを、次いでレルディンを見た。 「わたしは別に構いませんよ、どこでも」 レルディンは涼しげに微笑む。ラウェルスはナダに目を戻した。 「ナダは? ここは城には違いないが、ルフィードが王だからな。そんなに堅苦しくはないはずだが」 「え……? あ、うん」 ナダは頷いた。 「いいよ、ラン。お城に泊まるなんて、すごく緊張しちゃうけど」 すると、サルファが急におかしそうにナダの前に来た。 「ふーん、ラン、ねぇ。そう呼んでるんだ?」 「え……」 ナダはおろおろと言った。 「だって、ランがそう呼べって……」 「ふーん。俺たちは幼馴染だから幼名で呼び合ってるけど、今こいつをそう呼んでるのは、他は親兄弟と乳母くらいなものなんだぞ」 「はあ……」 ナダは何を言われているのかよく分からずに、呆けたような返事をした。サルファはそんなナダを見てくすくすと笑い、こう言った。 「えっと、ナダ、だっけ。どこでどう口説かれたのかは知らないが、こいつは女グセが悪いからな、気をつけろよ」 「ルフィードっ!」 ラウェルスが引き攣って抗議の声を上げた。 そんなラウェルスを見るのは、ナダには初めてだった。いつも悠々としていて堂々としている姿ばかり見てきたため、少し驚いた。そして、ふと気づいた。 「とっても仲がいいのね、ランと王様」 ナダはそう言ってくすくすと笑った。ナダには友達などいなかった。ヴォーヌやアールスは当然ながら友達という間柄ではない。それでも、ラウェルスとこの若き王を見て、何となく分かった。 「腐れ縁、ってヤツだな」 ラウェルスとサルファ、二人が同時にそう言い捨てる。 「ステキね」 ナダは心から羨ましくそう思い、またくすくすと笑った。 |
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