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炎の祠 〜熱砂の遺跡〜 |
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3. 更に最も違う点は、都の中央にある泉だった。よそでは地下水を汲み上げる井戸があるだけ、または泉があってもごく小さなものしかなかった。だが、ここの泉は大きくて豊かだ。その泉の淵の木陰では、たくさんの人々が憩っている。 全身を覆うほどの大きな布をベールのように頭から被っている女性。たっぷりとした布を頭に大きく巻きつけている男性。浅黒い肌に黒い髪。 確かに、この国の人々は他の国(……といってもナダは残る一国ギルランにはまだ行ったことがないのだが)とは様子が違う。いかにも異国情緒たっぷりといった感じだった。 手に木の桶を持った女性が、ナダたちに声をかけた。 「あら、珍しい。隊商じゃなさそうだから巡礼の旅の人ね。お疲れでしょう? あの泉で喉を潤すといいわよ。あの泉は<水の女王>ジェリド様から<炎の王>メライザ様への贈り物。絶対に涸れることのない魔法の泉なの。誰でも自由に飲めるからね」 「ありがとう」 ラウェルスが片手を上げてニコリと礼を言うと、女性は愛想良く笑って先に歩いて行った。 ナダは、ベールのなびく女性の後姿を見送りながら言った。 「親切ね」 「場所柄、旅人が来るなんて殆どない国だからな」 ラウェルスは言う。 「それも、この国では旅人といえば行商人か巡礼者だと思ってまず間違いないし、よけいに親切なんだろう」 話しながら歩いているうちに、泉に辿り着いた。泉は柵に囲まれているわけでもなく、どこからでも水を汲んだり飲んだりできる。だから、先客は何人もいたがたいして順番待ちをすることもなく、ナダたちは水を飲むことができた。 「きゃあっ、気持ちいいーっ」 泉に手を入れるなり、ナダははしゃいだ。砂漠では水はどこでも貴重品で、今まで喉を湿らせるぎりぎりの量を口に含むくらいしかできなかったのだ。 ナダは両手で水をすくって飲んだ。とても冷たく、とてもおいしい。砂漠旅の疲れは、この一瞬で吹き飛んだ。 ラウェルスもレルディンも水を口にし、同じように清々しい表情になっていた。勿論、二頭の馬たち、サリオスとテュイアも水を飲ませてもらった。 泉の周囲を回っていくと、都の人々とは服装の違う男性が一人いた。木陰の地面に御座を広げ、様様な品物を前にして座っているところを見ると、行商人に違いない。その男性の方でもナダたちを見つけたらしく、手を振って愛想良く声をかけてきた。 「やあ、旅の皆さん。ちょっと見ていきませんか?」 誘われるままに近づいてみると、行商人はラウェルスやレルディンとさほど変わらない年頃の青年だった。青年はいかにも商人らしく人当たりの良い笑みを浮かべていて、客の心をうまく掴むのに役立っていた。 行商人の商品は、実に多岐に渡っていた。ウルバース王国特産の淡水真珠や貝細工。アディアーク王国特産のバラの砂糖漬けやジャム、押し花を使った美しい小さな絵画、香水。ギルラン王国特産の木彫り細工や大理石細工。その他、いろいろな宝石や金銀細工、珍しい薬や茶葉などもある。種類は多いがどれも少しずつで、小さく、かつそれなりに高価な物を取り揃えていて、一人でも全ての商品を担いで行商できそうだった。 ラウェルスとレルディンは薬に目を向けたが、ナダはすぐに茶葉の小壷に飛びついた。香りを嗅いで、にっこりと笑う。 「いい匂い。このリンゴみたいな香り、カミツレね」 そう言って蓋を取ってみると、確かに白い乾燥花が入っていた。他にも、紅茶の葉や薄荷などの壷もある。 「お茶がお好きなようですね、お嬢さん」 行商人がにこにこと言った。 「はい」 元気に頷くナダは本当に幸せそうで、行商人はそれにつられたように更に笑顔になった。 薬を選び終えたラウェルスとレルディンが代金を払った。すると、行商人は脇に置いてあった木箱から、小さな包みを一個取り出してナダに差し出した。 「お嬢さん、これをおまけに差し上げますよ。どうぞ」 ナダは受け取ると、包みを開いてみた。茶葉と一緒に棗やナダの知らない木の実、氷砂糖などが入っている。ナダの知らない調合だった。 「それは商品ではなく、僕個人の飲用に持ち歩いているものですが、とても気に入っているものですよ」 「すごい。こんなの初めてよ。ありがとう!」 「どういたしまして。またどこかでお会いしときは、どうぞご贔屓に。ところで、皆さんがたは船でこちらに来られたのですか?」 「ううん。西の方から砂漠を馬で来ました」 「ああ、やっぱりそうですか……。実は僕もそうなんですよ。アディアークの港町ベルンから船でここに来ようと思ったのですが、どの船も出港しなくて……」 それを聞いて、ラウェルスが眉を顰めた。 「どういうことだ?」 |
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