炎の祠 〜熱砂の遺跡〜

2.

 人間の白骨死体だった。
 それも、一体ではない。三体だ。その内の一体が半ば砂に埋もれているところを見ると、もしかすると他にも砂に没してしまった白骨があるのかもしれない。
「これは……砂長虫にやられたのでしょうか」
 レルディンが美しい顔を、ほんの僅かにしかめて言った。
「砂長虫……?」
 ナダが首をかしげると、ラウェルスが振り向いて説明した。
 それは体長が十メートルほどもある、ミミズのような形の生物だという。砂漠では最も恐ろしい生物の一つで、普段は砂の下の巣に隠れている。その巣の近くには必ず流砂があり、不幸にもそこに足を踏み入れてしまった者は、巣に引き込まれて貪り食われてしまうのだ。
 だから、これまでラウェルスもレルディンも、流砂にだけは相当に気をつけて愛馬を歩ませてきたのだった。
「だったら……ヘンよ」
 ナダは言った。
「ここは石畳を敷いた街道だもん。流砂に乗ってしまうはずなんて、ない」
 ラウェルスは頷いた。
「それに、犠牲者は巣に引き込まれて食われるのが普通だ。なのに、白骨がこうして露出しているのも変だ。たとえ、この街道のすぐ近くに流砂があるにしても、な」
 三人は黙って白骨を見つめた。その心の中には、同じ言葉が浮かんでいた。
 世界が狂ってきている……。
「とにかく、早くこの場を立ち去った方が良いようですね」
 レルディンが言った。
「わたしたちも、いつ襲われるか知れないということですから」
 そのとおりだ。今や砂長虫は巣から出てきてまで、街道を行く者を襲っているということなのだろうから。
 ラウェルスとレルディンは頷き合い、無言でそれぞれの愛馬を走らせた。

 その夜は、街道の先に見えていた町の宿に泊まった。日干し煉瓦の粗末な建物とはいえ、久々の宿屋だ。熱いお湯も使えて、ゆっくりと疲れを取ることができる。
 ……はずだったのに、ナダは砂長虫に襲われる夢を見てしまい、翌朝、全身汗びっしょりになって目覚めを迎えてしまった。
 実物を見たことがないため夢の砂長虫はナダの想像の産物に過ぎなかったが、その想像が逞しすぎた。
 砂からズズズっと頭をもたげた巨大ミミズ。本当のミミズならどこにあるか分からない口が、人間の頭など一呑みにできそうな大きさに開き、その中にはぐるりと鋭い歯が幾重にも並んでいる。歯と歯の間に糸のように粘液が絡まっていて、その口腔は吐き気がしそうな赤黒い色。そんな口が執拗に迫ってくるのだった。
 ナダが馬上でその話をすると、ラウェルスは笑ってこう言った。
「君のことだから、またキレて短刀でも投げまくって、やっつけたんだろ?」
「何よ!」
 ナダはムッとした。
「人をそんな暴れ者みたいに言わないでよ!」
「本当のことだろ?」
 ラウェルスはくつくつと笑う。
 とにかく、それが正夢になることだけは御免だった。三人はひたすら街道を駆け抜けた。

 更に翌日、街道の両脇に古代の神秘的な像が立ち並び始め、その先に立派そうな街が見えた。
 今までに見たどのオアシスよりも大きく緑溢れる街で、背の高い大きな建物も見える。その少し向こうには大きな川が横たわり、更にその向こうに砂の色の山々が連なっている。
 炎の国サグナーラの王都ネイスに、ようやくたどり着くのだ。
 三人は緩やかな下りの街道を更に急ぎ、緑のポプラの木々に囲まれた西門をくぐったのだった。
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