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炎の祠 〜熱砂の遺跡〜 |
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1. 熱く乾いた風が、砂の大地を渡る。容赦のない生の太陽が、砂の大地に照りつける。 砂の大地……いや、砂の海、と言った方がぴったりかもしれない。細かな美しい砂が本当の海そのもののように、盛り上がったり沈んだりしているから。ただ、波のように頻繁に動いたりはしない。砂の海の波は、沈黙している。熱い風が吹いて、さらさらと繊細な音をたてる他は。 ここはアラウィサクの南部に広がる砂漠。この砂漠がサグナーラ王国の大半を占める。 ナダたちは<風の祠>を去った後、大神殿に立ち寄りはしたが、アールスには事の次第は話さなかった。話す必要があるのならラトカーティス神御自らが自身の大神官であるアールスに神託を下されるだろう。それに、他の祠と違って<風の祠>は王家の者の同伴が必要だから、巡礼者が危険なめに遭うこともないはずだ。 また、ラウェルスは何が何でも自分で事態を調べ、どうすべきなのかを自分で見つけるつもりでいた。<風の祠>で<風の王>に答えてもらえなかったことで、その意志は更に堅固になった。アールスはラウェルスの意志の固さを知れば、仕方なく反対することを諦める。そうと分かっているのにわざわざその手順を踏むのは馬鹿げているし、兄との王位継承争いで苦労をかけているアールスに今以上の心配をかけたくなかった、という理由もある。 そして今、ナダたちはサグナーラ王国の王都ネイスへ向けて、このサグナーラ砂漠を旅しているのだった。 サグナーラ王国、他国との交通の便が悪い。アディアーク王国からはこの砂漠を通らなければならないし、北のギルラン王国との間には大きく深く危険な森があり、陸路ではアディアーク、ウルバースを経て行くしかない。砂漠を渡る隊商も存在するが、最近のサグナーラと他国間の交通の主流は海路だった。 ナダたちも、本当ならアディアークの港町ベルンから船に乗れば楽だった。しかし、ラウェルスの境遇を考えれば、それは無理なことだ。アディアークの国内では、どの村や街でも刺客の待ち伏せに遭うだろう。 そういうわけで、大変なのは百も承知で砂漠越えの道を選んだ。とはいえ、砂漠も世界の姿の一部であり、灼けつく太陽もサラサラ鳴る砂も、ナダにとっては感動だった。 もう九月で真夏は過ぎていたため、陽射しも少しは弱まっている。これが真夏なら日中はとても歩けたものではなかったが、今なら頭巾さえ被れば真昼でも歩ける。太陽の位置で方角を確かめ、ときどき出会うオアシスで休みつつ、ナダたちは東へ向かった。 そうして砂漠に入ってから八日だ過ぎた頃、砂の中に一本の道が現れた。 石畳を敷いて作った街道だ。こちら側は砂に埋もれて自然に途切れてしまっているが、向こう側は砂の起伏が少なく、東へ向けて真っ直ぐに伸びている。そして、その先に、小さなオアシスの街が見えていた。 「あれが王都?」 ラウェルスの漆黒の愛馬サリオスの背の上で、ナダはラウェルスの後ろから顔を覗かせた。ラウェルスは手の甲で額の汗を拭いながら答える。 「いや、違う。だが、街道が現れたということは、あと少しってことだな」 「馬も歩かせやすくなりますしね」 レルディンはそう言うと、頭巾の脇から垂れている銀の編み髪を、労るように撫でた。髪を編んであるのは頭巾を被りやすくするためでもあったが、強い陽射しで髪が傷むのを防ぐためでもあった。ナダも髪が傷んだり顔が灼けたりしないようにラウェルスにきつく言われているが、髪の長さが肩にも触れない程度なので頭巾を被っていれば済むので楽だった。 ラウェルスとレルディンは、それぞれの愛馬を石畳の街道に進めた。二頭とも優秀な馬だから砂地でもよく耐えてくれたが、やはり足元がしっかりしている方が楽に決まっている。サリオスもテュイアも心なしか嬉しそうで、張り切っているように見えた。 街道の先に見える街までの道のりを半分ほど進んだ頃、ラウェルスが急にサリオスの手綱を引いた。 「どうしたの、ラン?」 ナダが後ろから尋ねると、ラウェルスは黙って前方を指差した。ラウェルスの背から身を乗り出して、その前方を見ると……。 「……!!!」 ナダは口元を覆い、びくんと凍りついた。 |
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