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風の祠 〜天空の島〜 1. ウルバースの王都センヌからアディアークへ向かう街道を馬で飛ばして、六日め。国境を間近にしてラウェルスは、このまま街道を進むかどうか悩んだ。しかし、最近は全く刺客も現れず急ぎの旅でもあったため、そのまま突っ切ることにしていた。 ウルバースとアディアークの国境には、古代の砦の跡がある。街道は、その壊れた門を貫いてアディアーク国内へと続いている。ナダたちは、崩れた砦の門を駆け抜けた。 そのとき、その陰から飛び出してきた者があった。 四人の騎士……ラウェルスへの刺客。 しかし、刺客たちは比較的簡単に倒された。ラウェルスの苛立ちに加えて、今回はレルディンの加勢もあったからだ。ナダもできることなら何か役に立ちたかった。しかし馬上戦だったため、ラウェルスの後ろに乗せてもらっているナダは、落馬してラウェルスの足を引っ張らないようにするだけで精一杯だった。 この一戦後ラウェルスは、やはり街道を逸れて<風の森>の中を進むことにした。 よく考えれば、人気(ひとけ)のない森の中は、格好の暗殺場所なのかもしれない。一方、人目のある町や街道などならば、たとえ刺客に見つかっても、その場では襲われないだろう。しかし、それはこちらも手が出せないということで、ラウェルスの動きが全て兄王子に知られてしまうということだ。 それに、もし、最初のときのように夜中に宿で襲われたりしたら、他人に迷惑がかかる。 そういうこと全てを考え合わせると、やはり森の中のような場所のほうが都合がいいのだった。 ナダたちは丸二日間、森の中を進んだ。その間、幸いにも刺客には一度も出くわすことはなかった。 いや、一度だけ、出くわした。ただ、それは死体になっていた。全身に無残な掻き傷があったので、森の凶暴な獣に襲われでもしたのだろう。しかし、ラウェルスの記憶では、この森にはそんな危険な生き物はいないはずだった。不審に思いながらも、ラウェルスはそのことは口にしなかったが。 三人は途中で西へ進路を変え、<風の森>を出た。 そこは、広々とした草原だった。ここからは人目につくことになってしまうが、仕方がない。目的地へ行くには、この草原を横切るしかないのだ。重苦しい曇天の下、三人は草原を西へ向かった。 その翌朝は、昨日とは打って変わって素晴らしい晴天が広がった。夏の朝の陽を浴びた草は生き生きとした黄緑色に輝き、気持ちのいい風が緩やかにその上を渡っている。 目覚めて、うーんと伸びをし、ナダはその景色をぐるりと見回した。そして、不意にぴたりと動きを止めた。 「あれ、何……?」 ナダの止まった目線の先、地平線の空に何かが浮かんでいた。 こんなに遠くからでも見えるのだから、かなりの大きさのものに違いない。だから、当然、鳥などであるはずがない。 ラウェルスがナダの見ているものに気付き、その正体を教えた。 「あれは島だよ。<風の島>。今日は天気がいいから、もう見えるんだな」 ナダは戸惑った。 「し……島って……。だって、あれ、空中に……」 「そう、浮いている」 ラウェルスは、こともなげに言う。 「風の精霊王フェンキベル様の魔力でな」 「え……? ええーっ!?」 ナダは目を丸くし、今一度しげしげと天空の島……それが本当に島だとして……を眺めた。島が空に浮いている……そんなことは到底信じられない。風の精霊王の魔力だと一言で片付けられても、信じるのはあまりに難しい。 「ラン、また、あたしをからかってるんでしょ」 ナダが少し膨れてそう言うと、ラウェルスはおかしそうに笑った。 「確かに、君はからかい甲斐があるもんな」 「ランっ!」 「怒るな。からかってなんかいないよ。行けば分かる」 「行けば、って……え? 行く……?」 ナダはきょとんとラウェルスを見た。炎の髪の王子は、にこりと頷く。 「俺のアディアーク王家は<風の王>フェンキベル様をお祀りしていて、<風の祠>を管理している。その祠は、あの<風の島>なんだよ」 「でも、空の上よ? どうやって行くの?」 「それは行ってのお楽しみだ。さあ、朝飯を食うぞ。さっさと顔洗って、髪を梳かせ」 「はーい」 ナダは頷いて、既にレルディンが顔を洗いに行っている近くの小川へ走って行った。
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