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2. 街の中心部へ向けて石畳の大通りを歩きながら、ナダはふと辺りを見回した。何か道行く人々の視線が、こちらに集まっているような気がする。その視線を正確に辿ってみて、ナダは納得した。レルディンだ。(そりゃ、ね) この容姿で歩かれれば、誰でも目を奪われてしまう。銀の長髪をなびかせて歩く、絶世の美青年。夏の森のような緑の瞳は、あくまでも涼しい。ラウェルスとはまた違った目立ち方だ。 そう、ラウェルスも目立つのだ。刺客に狙われている人間には全く不都合にも。 ひょっとすると自分たちは異様な一行に見えるかもしれない。そんな気がして、ナダはちらりとラウェルスの横顔を見上げてみた。 ラウェルスは何かを考え込んでいるようだった。目がどこも見ていない。 「ラン、どうしたの?」 「ん? ああ、どうやって城に入ろうかと思ってな」 「お城? お城に行くの?」 ナダは目をぱちくりとさせた。宿屋へ向かっているものだとばかり思っていたのだ。 「ああ。精霊王の祠は、それぞれの精霊王を祀る王家が守ってるんだ。だから巡礼者は、みんな管轄の国王から許可をもらわないといけないんだよ」 「ふうん。でも、だったら、巡礼です、って言えばいいんでしょ?」 そう言ってから、ナダはハッと思い出した。 「って、そんなに簡単じゃないのね? もしそうなら、あの屍術士のおじさんだって行けるもんね」 「そういうこと。身元が確かじゃないとダメなんだ。巡礼者はその証の書類を持っていてね、それは自分の戸籍のある国の王からもらうことになってる。……分かったな?」 「うん……」 あの屍術士も元はどこかに戸籍があったはずだろうが、あんな所に住んでいて、今では住所不定の浮浪者同然だ。おまけに、屍術などという怪しげなことをやっている。 ナダの戸籍は……やはりないだろう。師匠でもあり養い親でもあるヴォーヌの塔は一応アディアーク王国の領内だがあまりに辺境で、更に大魔術師というヴォーヌの地位のために、実際には王国の管轄外だ。それでもヴォーヌ自身なら身元は保証されているだろうが、彼女に拾われただけの記憶喪失の孤児の身元となると、甚だ怪しいものだ。 ラウェルスの身元はこれ以上はないくらい確かなものだが、使えない。城から脱走してきた刺客に追われる身では、簡単に戻るわけにもいかないし、身分を晒しまくるわけにもいかない。 (じゃあ、レルディンは……?) ナダはレルディンの美しい顔を伺い見た。それに気付き、レルディンは目をちらりとナダに向けて、僅かに微笑んだ。 「わたしもダメですよ。放浪者ですから」 ナダは絶句してしまった。要するに、マトモな者は一人もいない。お笑いだ。 「でも……誰でも巡礼できるといいのにね。そういう区別されると、あたし落ち込んじゃう……」 亜麻色の巻き毛を人差し指に絡ませながら、ナダは溜め息をつく。そんなナダの頭をぽんぽんと叩いて、ラウェルスが言った。 「すまないな。だが精霊王の祠は、世界にとってとても大切で特別な場所なんだ。身元不明者が全て怪しいってわけじゃないが、仕方ない」 「そもそもそんな重要な場所の管理を人間などに任せたのが間違いなのですよ」 レルディンが無表情にそう言った。 ナダとラウェルスは足を止め、ぽかんとレルディンの顔を見た。しかしレルディンは全く気に留めずに数歩進み、足を止めて振り向いた。 「さあ、どうします? 王城ですよ」 もう王城前の広場に来ていた。 目の前に<水の国>を象徴するかのような、透明感のある青白い石で建てられた城がある。全体的に荘厳さよりも優美さを感じさせるこの城が、代々水の精霊王<水の女王>ジェリドを祀るウルバース王家の城だった。 ラウェルスは城門とその前に立つ二人の衛兵を眺めた。次に、手首から指の第二関節までを覆う黒い革手袋をはめた自分の右手に目を落とす。 「仕方ないな、今回だけだ」 独りそう呟くと、ナダとレルディンについて来るように手で合図をして、衛兵の前に進んだ。 衛兵の一人が進み出て、訪問者へのお決まりの質問をした。 「こんにちは。ご用件を承りましょう」 衛兵にありがちな高飛車さがなく丁寧な物言いは、城主の指導が行き届いている証拠だろう。残念ながら、ラウェルスの生まれ育ったロスネス城には、ここまで丁寧な物言いの衛兵はいない。 いつか自分の騎士団を与えられたらその者たちだけでもマトモに指導してやると心に誓いながら、ラウェルスは右手の手袋を外した。 「アリシア陛下にお目通りを願いたい」 王子らしい堂々とした口調でそう言ったラウェルスは、今は顕になった右手を衛兵の前に差し上げた。その薬指に、白金の指輪……後光が射す六枚の翼の意匠の紋章指輪が光っていた。 衛兵たちはそれに見入り、仕事柄、一瞬後にその指輪の意味するものを悟って慌てた。 「あ、あなたはアディアークの……」 「大声を出すな」 ラウェルスは衛兵の口を押さえた。 「忍びなんだ。早く取り次げ」 「は、はい。どうぞ中へ」 衛兵はそそくさと門を開け、中にいた案内係は彼に耳打ちされると慌てて奥へ走っていった。 「なるほど」 城門をくぐりながら、レルディンが言った。 「やはりアディアークの王子なのですね。名前を聞いたときから、そうではないかと思っていましたが。その名をつけられる人間は、アディアーク王家の者しかいないでしょうから」 「まあな」 ラウェルスは悠然と笑った。 「だが、おまえは物知りだな。民間伝承では、魔王戦争の英雄の名は語られていない」 「まあね」 レルディンは涼しく笑みを返した。 (なんだか不思議な人ね、レルディンって) ナダは指に絡めたままだった髪をほどき、ラウェルスについて王城へ入っていった。 |
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