![]() |
![]() |
|
![]() |
||
|
水の祠 〜碧玉の湖〜 1. このアラウィサクの世界には守護神ラトカーティスの他に、地・水・火・風を司るそれぞれの精霊王が存在する。それぞれの精霊王にはそれぞれの祠があり、精霊王の力はそこから世界じゅうへ注がれている。その恩恵で、世界は、そして世界のすべての存在は、生きていくことができるのだ。その恩恵に感謝するため、または更なる恩恵を願うため、いつの頃からか人々はそれぞれの祠を巡礼するようになった。ラトカーティス神の神殿ならどんな村や街にも、規模の差こそあれ必ず一つは存在し、人々はいつでも好きなときに好きなだけ参詣できる。しかし、精霊王の祠はそう簡単には参詣できない。世界じゅうにそれぞれ一つずつしかない上に、一つの国にどれか一柱の精霊王の祠しかないのだ。だから、精霊王の祠の巡礼は、人々の憧れだった。
メリトの街の廃墟を出発してから四日後、ナダたちは川が縦横に巡らされた美しい街、水の都センヌの門をくぐった。 川の水はどこまでも透き通って美しく、その透き通り方も普通の綺麗な水というのとは感じが違う。太陽の光を反射しなくても水そのものが煌めいているような、不思議な透明感だ。そしてその中を、色とりどりの宝石のような魚たちが気持ちよさそうに泳いでいた。 「綺麗ねぇ。こんな綺麗な水、あたし見たことない」 サリオスの背から降りて水辺に屈み、ナダはもう何度も言ったその言葉を繰り返した。そんなナダを見て、ラウェルスは呆れていた。 「そりゃ、君にとっては何でも初めてだろうが、よくもまあ、飽きもせずに、いつまでも」 「だって、こんなにキラキラしてる。どうしてかな?」 ナダがそう言ったとき、ちょうど通りかがった籐の買い物籠を提げた女性が足を止めた。 「ここは<水の国>だから当然だよ。水の精霊王ジェリド様の恩恵をどの国よりも多く受けてるから、この国の水は他のどの国の水よりも綺麗なんだ。特に、この都はね」 女性はとても誇らしげにそう教えてくれた。すると、その女性のスカートの陰から彼女の子供らしい幼い少女が、ひょっこり顔を覗かせた。 「でもね、最近お魚さん、あまり来てくれなくなったの」 「え? でも、こんなにいるよ?」 ナダがそう言うと、少女は首をぶんぶんと横に振る。 「もっともっと、いっぱいいたの」 「また、この子はそんなこと言って」 母親がたしなめた。しかし、少女は言い張る。 「だって、クッピちゃんもいないし、ミルルちゃんもいないもん!」 「クッピ? ミルル?」 ナダが首をかしげると、母親は苦笑した。 「この子、気に入った魚に名前を付けてるんだよ。本当に見分けてるとは思わないけどね」 「ちゃんと分かるもん!」 反論する少女に、母親は溜め息をついた。 「はいはい。さ、もう帰ろうね。じゃあね、旅の人たち」 母親は少女の手を取った。少女は慌てて言った。 「本当だからね! 信じてね、お姉ちゃん! ばいばーい!」 「ばいばい」 ナダは手を振って母娘を見送った。そして、再び水中に目を戻した。 「本当にもっといたのかな?」 「うーん、言われてみればそんな気もするが……。俺だってそんなに何度もここへ来たことがあるわけじゃないからな」 答えてラウェルスも水中の魚たちを目で追っていたが、レルディンが二人の背後から声をかけた。 「そろそろ行きませんか?」 「ああ、そうだな」 ラウェルスは顔を上げた。 「行くぞ、ナダ」 「あ、うん」 ナダは頷いてきびすを返すと、サリオスの手綱を引くラウェルスに並んだ。 |
||
![]() |
||
![]() |
![]() |